2000.10.3. "case sensitive"という表現

とあるWWWページで、自分のメールアドレスとパスワードを入力するフォームがあり、そのパスワードの記入欄の下に、"the password is case sensitive"という注意書きがありました。

"case sensitive"?これは、私の頭の中になかったので、かなり悩みました。ネイティブ・スピーカーはたぶん問題ないんだろうし、ちゃんとした英語感覚がある人ならすぐにわかるんだろうと思います。が、私には全然見当がつきませんでした。

"-sensitive"は"light-sensitive"や"heat-sensitive"なんかの表現と同じで、「−に対して敏感な/−の差を認識する」というような意味でとりあえず良いはずです。問題は"case"の方ですが、これがわかりませんでした。当然"case"を辞書で引いてみて、どんな意味があるかを調べてみたわけですが、パスワード入力フォームという文脈に当てはまるような語義がありませんでした。

「1.場合,2.実例,3.実情,4.事件,5.症例,6.主張,7.格(文法用語),8.変わり者…」(『カレッジライトハウス英和辞典』研究社より)

コロケーション辞典を見ても載っていないし、仕方がないので実際の用例を眺めてみることにしました。で、インターネットで"case sensitive"を検索語として調べてみたら、なんと一発!あっさりわかりました。こんな例が出ていたのです。

"HTML is not case sensitive. <title> is equivalent to <TITLE> or <TiTlE>."

ようするに、"case sensitive"であるということは、「大文字と小文字を違うものとして認識します」ということだったようです。

これで、"case sensitive"の意味自体はわかって良かったわけですが、当然のことながら、なんでそんな意味が出てくるのだろう、という疑問が湧きました。上で見たような"case"の語義をみる限り、「大文字・小文字」というような意味が出てくるようには思えないからです。

で、どうしたもんかと思いながら辞書をぱらぱらめくっていると、"upper [lower] case"という表現が目に止まりました。そう言えば、"upper case"「大文字」、"lower case"「小文字」という表現があったということを思い出しました。"case"1語だけでは「文字」というような意味はないものの、"upper- [lower-]"と結合することによって「大文字[小文字]」という意味が出てくるのでした。

で、それはそれでいいのですが、ちょっとこの表現って納得いかないことないですか(笑)?もともと"case"に「文字(種)」という意味があるのであれば、"case sensitive"は全く自然な表現であると思います。しかし、複合語になって初めて出てくるはずの「大文字/小文字」という意味から、"case"だけを取り出して「文字(種)」という意味で使うのは、言語のルールとしてアリなんだろうか?と疑問を感じました。

私は語形成などの方には詳しくないので間違っているかもしれませんが、"upper- [lower-] case"→"case"という語の作り方は、いわゆる「逆形成(backformation)」に近い操作なのかな、と思います。そうやって作り出した"case"という語を"sensitive"と結合させてできあがったのが"case sensitive"であるということでしょうか。

こう考えると、いちおうの筋道はわかるのですが、やはり落ち着きの悪さを感じます。ネイティブはこれでわかるんだろうと考えると、それも自然な操作なのかな、という気もしますが…。ということで、ちょっと納得のいかない英語表現にでくわしたという経験でした。

追記1:ある方から、上記の"case"の意味、および"case-sensitive"という表現が、The New Oxford Dictionary of English (NODE:OUP1998) において取り扱われているとの指摘をいただきました。以下に引用します。

"case2:each of the two forms, capital or minuscule, in which a letter of the alphabet maybe written or printed"

"case-sensitive: Computing.(of a program or function) differentiating between capital and lower-case letters"

"case"「文字種(大文字/小文字)」の意味の発生過程はちょっとわからないままですが、"case-sensitive"の方は、"Computing"の標示があることからも、どうやら新しい表現であるらしい、ということがわかりました。

私の調べ方に不足があったことをお詫び申し上げます。

ただし、本文中では述べませんでしたが、"lower [upper] -case"という表現は、『ジーニアス英和辞典』などによると、どうやらタイプライターの印字のうち、大文字が"upper case"つまり「上の方の箱」に入っており、小文字が"lower case"「下の方の箱」に入っていたところから来た表現のようです。

したがって、"case"に元来「文字種」の意味があったとは、ちょっと考えにくいと思われます。ということで、まだやはり納得いかない気分は残っています(笑)。

追記2:知人のイギリス人男性に、この表現について尋ねてみたところ、「初めて目にした時には違和感を感じた。使っているうちに多少は慣れたけど…。」ということでした。イギリスの大学院で言語学を学んだという人なので、ネイティブの平均よりは評価が厳しいところがあるかもしれませんが、私の「納得いかない気分」も、あながち見当違いというわけでもなかったようです。

ちなみに彼によれば、「100年前であれば、"case-sensitive"とは言わずに"sensitive to the difference between upper-case and lower-case"と言っただろうね(笑)」とのこと。インターネットの普及が英語表現を、ある意味で「乱れた」ものにしているというのが彼の認識です。



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