『英語検定教科書』 【小串雅則(著),2011年,三省堂,2,200円】
副題は「制度、教材、そして活用」。著者は、元教科書調査官・視学官。と聞くだけで、四角四面の硬い本のように聞こえますが、本当に硬い本です。テーマが「検定教科書」なのですが、この本自体が「検定教科書についての検定教科書」とでも評せざるを得ないほど、「教科書的」なつくりで、副題のとおり、英語の検定教科書を取り巻く制度や、検定教科書の編集過程、個別の状況に合わせた教科書の活用法など、これ1冊で英語検定教科書について包括的な理解が得られます。当然、著者の経歴からしても、その内容は「文科省のお墨付き」と言ってよいでしょう。読んでみれば「なんだ、そんなこと知ってるよ」とか「そんなの当然じゃない?」と思ってしまう内容なのですが、あらためて、「じゃあ、あなた説明してみてよ」と言われると、途端にしどろもどろになってしまいます。英語教育に関する教職教養として、あるいは資料として、一度は読んでおく価値がある本だと思いました。また、そういった「教科書的」な記述の中に、ほんの時折、ちらっとだけ「生身の教員」としての著者が感じられ、どういうわけか嬉しい気持ちになりました。
『教育論議の作法』 【広田照幸(著),2011年,時事通信社,1,600円】
副題は「教育の日常を懐疑的に読み解く」。同著者が書いた『教育問題はなぜまちがって語られるのか?』と同じ方向性を持つもので、より具体的な個別の問題を取り上げ、時には専門的な見地から、時には「あんたちょっと落ち着いて考えてみなさいよ」という常識論から、「その意見は本当に正しいですか?」と、読者に再考を迫ります。教育を語るときに、既に価値が確立しているかのように使われる言葉を、ちょっと距離を取って冷静に捉えなおすにはどうすればよいかが少しわかったような気がします。
『「意味順」英語学習法』 【田地野彰(著),2011年,ディスカヴァー・トゥエンティワン,1,500円】
岩波ジュニア新書の『<意味順>英作文のすすめ』(2011年,岩波書店,780円)とほぼ同時期に発刊された「意味順」指南書。両書とも、原型となる枠組みは10年以上前の『英会話への最短距離』や『「創る英語」を楽しむ』で確立されていたものです。英文の構造を「語順」ではなく「意味の順序=意味順」として捉えなおすというのは、英語に慣れてしまった者には当たり前のことのように見えて、英語に苦手意識を持つ学習者にとっては意外なほどブレイクスルーを生む「突破口」なのでしょうね。英語教員は知っておいて損のない枠組みだと思います。
『公立学校はどう変わるのか』 【安彦忠彦(著),2011年,教育出版,1,800円】
標題のとおり、今の公立学校に、行政的に、あるいは社会的に何が求められているのか、それに対応していくために、どのように変わっていくのか、変わらねばならないのか、が、平易な言葉で解説されています。話題は、中高(小中)一貫教育、教員養成、言語活動の充実、教科書、学級規模、道徳教育、評価、地域・保護者との関係、キャリア教育など、実に多岐にわたります。教育界の最新の動向を把握するのに適した本だと思います。しかし、けっして通り一遍の解説書ではなく、著者なりのポリシーの感じられる内容です。特に、保護者や教育関係者以外に対して注文を付けるような部分もあり、教育界のインサイダーとしては心強く感じました。
『ずるい考え方』 【木村尚義(著),2011年,あさ出版,1,300円】
副題は「ゼロから始めるラテラルシンキング入門」。自分の関わっている「クリティカル・シンキング」関連の実践で、新たな展開を模索するのに読んでみました。ひじょうにわかりやすく、おもしろく読めました。ロジカルシンキングを「垂直思考」と呼び、それを補完するものとして「水平思考=ラテラルシンキング」を提案するのですが、具体的な「例題」が豊富に挙げられているので、実際に自分の頭を使いながらラテラルシンキングを体験することができ、「そんな発想・・・言われてみればアリだよね」という、知的好奇心が刺激されます。
『格差をこえる学校づくり』 【志水宏吉(編),2011年,大阪大学出版会,2,000円】
長年にわたる同和教育の伝統が息づく大阪を中心とする関西地域において、個々の生徒が置かれている環境から生じる「格差」を、学校の取り組みとして何とか少なくしようとする試みについて、複数の学校での取り組みが報告されています。理論的な分析・具体的な実践・教員個人の実感・教育行政など、いろいろな角度からの著述が集められていますが、1つ共通しているのは、「普通の教員が集まる普通の学校」に何ができるかという視点だと思いました。
『宗教を生み出す本能』 【ニコラス・ウェイド(著)依田卓巳(訳),2011年,NTT出版,2,800円】
副題は「進化論からみたヒトと信仰」。歴史上、宗教が原因となる、あるいは宗教を口実とした対立や紛争は、世界中でひっきりなしに起こってきたわけですが、制度化されていない信念も含めて何らかの宗教を持っているという点は人類の大部分に共通しています。私はこのことを、ずっと興味深く思ってきて、進化の過程で「宗教本能」のようなものが人類にはインストールされてきたのだろうか、と考えてきたわけですが、まさにそういった問題意識に正面から答えてくれる著作でした。自然淘汰のうえで有利に働くから宗教行動が人類に保存されてきたという機能的な考え方は、信仰心篤い人々には許しがたく聞こえるのかもしれませんが、ますます自分の存在そのものについて考えるきっかけにはなることでしょう。
『伝わる!文章力が身につく本』 【小笠原信之(著),2011年,高橋書店,1,200円】
日本語での文章作法についての具体的なガイドブックです。ついつい確たる理由もなく頼ってしまいがちな言葉(「そうした中」「が」「だろう」など)の適切な使い方や、意味が明確に伝わる文の構成法、印象的な表現の仕方、「は」と「が」や「ので」と「から」など、似たような働きの言葉の使い分けなど、わかっているようで、あらためて教わると「なるほど」となることが多くありました。これの英語バージョンを考えて教材化してみたいと思いました。
『英文テクニカルライティング70の鉄則』 【中村哲三(著),2011年,日経BP社,2,000円】
商品のマニュアルなど、読み手が適切な行動が取れるように、伝えたい内容を簡潔かつ正確に表現する英文を書くコツが、豊富な具体例とともに整理されて示されます。仕事で英文を書く社会人向けという切り口で書かれているので、英語教員にとっては当たり前の話もあれば、「そういえばそんなこと意識したことなかったよなあ」という細かいお作法まで幅広く扱われています。日本語話者が作りがちな英文が多く取り上げられていますので、高校・大学でのライティング指導に活かせる部分もありそうです。
『TPP亡国論』 【中野剛志(著),2011年,集英社,760円】
標題から明らかなように、日本のTPP参加への徹底的な反対論を唱えています。著者は、現在は出向中で大学の助教という肩書きですが、現職の経済産業省官僚。マスコミ報道を見る限り、農水省はTPP反対、経産省は賛成、という図式が強調されますが、そんな単純な話ではないというのがよくわかります。「アジアの成長を取り込む」「国を開くというメッセージを発する」「環太平洋地域のルール作りに乗り遅れる」など、TPP賛成論が挙げる根拠を一つ一つ、具体的な、しかもオープンな情報を元に論破していき、TPP参加を急ぐことは国益を損ねると主張します。反論のあまりの徹底ぶりに、本書を読んだ後、賛成論者の言い分も読まなければ、自分の中でバランスが保てなかったほどです。
『TPPが日本を壊す』 【廣宮孝信(著)青木文鷹(監修),2011年,扶桑社,740円】
TPPに関して、「農業保護」対「経済成長」のように、二者択一的な議論に終始しがちな現状に対し、どの立場にとってはメリットがあり、どの立場にとってはデメリットがあるのか、また、TPPに参加する他国はどのような条件において利を得ようとしているのかをわかりやすく整理しています。TPP推進派の言い分にも目を配っているという点では、中野(2011)『TPP亡国論』よりは冷静なトーンといえますが、それでも、メリットとデメリットを比較するとデメリットが多いとする主張は明確です。特に、日本の場合は地方自治体のレベルで既に他国に匹敵する経済規模を持っているので、「国対国」という図式でTPPを理解するのは不正確という指摘には目を開かれる思いがしました。
『「熟議」で日本の教育を変える』 【鈴木寛(著),2010年,小学館,1,200円】
副題は「現役文部科学副大臣の学校改革私論」。著者は民主党参議院議員。副大臣という地位にも表れていますが、今後の教育界の動向は、この人を抜きにしては語れないと言われるほどの実力者。一時期マスコミでも取り上げられた。一連の「熟議」イベントの仕掛け人でもあります。本書の内容は、「熟議」をキーワードに、日本の教育にとって、今後どのような方向性が望ましいかについて著者の私見を述べるものです。正直なところ、理念的・総括的な話に終始して具体的な指針が見えづらいのが残念ですが、著者の立場を考えると、言質を取られないギリギリの主張として仕方のないことなのかな、とも。それでも、「トップから見た教育論」として知っておく価値はあると思いました。
『岡田武史というリーダー』 【二宮寿朗(著),2010年,KKベストセラーズ,724円】
サッカーは嫌いというわけではないのですが、たいして興味がなく、Jリーグどころか日本代表についてすら、マスコミが騒ぎ立てていても、ほとんど事情を知りません。しかし、どういうわけか岡田武史さんのことは気になっていて、いったい、どのような監督だったのかを知りたいと思い、この本を読みました。著者は、チームを運営していくのに「理想と現実の両面を同時に見ている」という基本線に沿って岡田采配を解釈します。全体を通じて岡田さんを高く評価するスタンスなので、世間的には批判されたできごとも良い方向に解釈する説明をしています。しかし、だからと言って浅薄なヨイショをしているわけではなくて、著者自身の長期的な取材に基づく実感であることがうかがえます。素人に見えている部分と実際は、かなりギャップがあるのだろうなと思いました。
『教育問題はなぜまちがって語られるのか?』 【広田照幸・伊藤茂樹(著),2010年,日本図書センター,1,500円】
副題は「わかったつもり」からの脱却」。教育に関する言説は、いかにももっともらしく語られる一方で、その正しさが疑わしことが少なくありません。本書は、「教育問題とは、教育に関するある事項について、社会的に『問題だ』とされている問題である」というスタンスから、世の中に広まっている「教育問題」の真偽、あるいは実像を、冷静に捉えようとしています。いじめ、自殺、少年犯罪、家庭の教育力の低下など、なんとなく正しいと思い込んできたことがらについて、「本当に?」と疑う姿勢を持ってみる必要性がよくわかりました。巻末のブックガイドは良心的で、これだけでも教育について学びたい人にとってはたいへん有益だと思います。
『アイデア脳を作る水平思考のすすめ方』 【山下貴史(著),2010年,日本能率協会マネジメントセンター,1,500円】
論理思考・ロジカルシンキングを「垂直思考」と呼び、それに対置するものとして「水平思考」「ラテラルシンキング」を提案します。水平思考とは、たとえば「古いビルのエレベーターが遅くて、ビルのオーナーに対してテナントから苦情が来ている。さて、どうするか?」という問いに対し、問題の定義づけを「エレベーター」から外すことで解決を図るような思考法のこと。論理思考と併用することで相互補完できると著者は言いますが、むしろこれも論理思考の一種なのでは?と思いながら読みました。主たる想定読者はビジネスパーソンかもしれませんが、教員にとっても発想のヒントとなり、おもしろく読めました。
『偽善エネルギー』 【武田邦彦(著),2009年,幻冬舎,760円】
テレビにも頻繁に出演している研究者が、エネルギー問題や環境問題、食糧問題に関して巷間まことしやかに流布されている「定説」を、「そんなものはマヤカシだ」とばかりにバッサリと斬り捨てます。「自然エネルギーは環境にやさしい」というのをわたしは無批判に信じていましたが、エネルギー保存則に従えば、自然エネルギーも、電気に変換された分だけ弱くなるので、それが環境に影響を与えないわけがない、という説明を読んで、言われてみればその通りだと納得せざるを得ませんでした。原子力の問題についても、きちんと視点を分けて解説されており、わかりやすかったです。
『小1〜小6年 “書く活動”が10倍になる楽しい作文レシピ100例』 【森川正樹(著),2008年,明治図書,2,460円】
小学校での国語科を中心とした作文活動が、小ネタ的なものからプロジェクト型の大がかりなものまで種々様々なものがきわめて具体的に紹介されています。「小学校」あるいは「国語」の色が濃い活動もありますが、むしろ中高英語にもそのまま転用できそうなものの方が多いように思います。「あ、これ、やってみたいなあ」と思う活動がたくさんあり、ライティング指導に悩む教員ならば、一筋どころではなく光明が見えるのではないでしょうか。英語教員必読!と宣伝したくなるほどです。
『英語個別化授業のすすめ』 【小林泰義(著),2005年,明治図書,2,360円】
「個別化授業」とは、その名の通り、一斉授業ではなく、個々の生徒がそれぞれの学習課題に、それぞれのペースで取り組んでいく授業のことです。もちろん、生徒に丸投げの「自習」ではなく、個々の生徒が自分に合った課題をこなしていくことができるように、教員がきちんとサポートするものです。そういった「個別化授業」を進めるにはどうしたらよいかという、具体的な提案や助言をまとめたのが本書です。一斉授業に慣れていると「個別化!?」と思いますが、最初から完全に「個別化授業」をするのではなく、段階的に取り入れていくものなので、最初の印象ほどには突飛なものではないと思いました。ただ、本書が「個別化学習」で想定している学習課題は、当然のことながら、学習者がひとりで学習できるものです。しかし、学習指導要領上はインタラクティブな技能の育成が求められており、その辺りとの折り合いをどう付けるかというのが、読んだ側に課された課題かと思いました。
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