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ひじょうによくまとまった良書です。アクション・リサーチに関しては数年前から一種の流行のような雰囲気がありましたが、その真に意図するところを正確に理解しないままの「擬似アクション・リサーチ」が少なくない現状があるということも指摘されていました。
本書はそういった現状を踏まえ、そもそもアクション・リサーチとは何であって何でないのかをきちんと理念のレベルで解説したうえで、普通の英語教員がアクション・リサーチを通じて自らの授業を見直していく際に何に気をつけねばならないのかを平明かつ丁寧に教えてくれます。
まず第1部ではアクション・リサーチという手法そのものについての解説と、アクション・リサーチを進めるうえでのFAQをいくつか取り上げ、読者がアクション・リサーチを理解し、また実践する際に何を知っておかねばならないかが示されます。
たとえば、アクション・リサーチの本質について次のような解説があります。
「ですから、この授業改善のキーワードは『振り返り』です。ARは、ある特定の問題への『振り返り』を体系的に持続することだともいえるのです。」(p.6)
「では、ARの調査結果は一般化できない、単なる自己満足なのかというと、決してそうではありません。皆さんも第2部に収録されているARのレポートを読めば、『これは自分も悩んでいる問題だ。たしかに、このように対応すればうまくいくだろう。是非、自分もやってみよう』と思うリサーチに出会うでしょう。その場合、読者がレポートの内容を自分に当てはめ、ある意味での一般化をしているのです。すなわち、ARの一般化はレポートの結論に示されるのではなく、読者が共感したときに発生するのです。」(p.12)
このように、アクション・リサーチとはある一定の手順を型どおり行なうことではないと明言し、実践者が他者のアクション・リサーチから学ぶ際に、何を期待してよいか、何を期待してはいけないか、をきちんと提示しています。現場の実践者は、ともすればほとんど無意識のうちに、すぐに自分の現状に適用できる一般論や出来合いのテクニックを他者が教えてくれることを期待しがちで、しかも期待するものが得られないと自分勝手に見切りをつけてしまって我流の世界に逃げ込んでしまう傾向があります(その傾向を自ら戒める人とそうでない人の差はある)。しかし、それは間違った姿勢であるということが本書では明確に示されています。
実践者たるもの、他力本願にならず自ら主体的に考えて仕事をすべきなのであり、また他者の実践から学ぶにもそれなりの作法が必要なはずです。アクション・リサーチが目指すものはまさにそういった実践者の自己研鑽・自己変革を体系的に行なう一つの作法であると私は思っているのですが、これまで当の実践者がアクション・リサーチの本質を充分に理解してこなかったという現実があるように思われます。
本書はそういった誤解や不理解を正し、現職教員が日々の仕事の中で授業改善を有意義に進めるためのガイドラインを示しています。
また、第2部では、これまでに発表されてきたアクション・リサーチの実例が、「基礎的な英語力」や4技能、「学習意欲」などのテーマ別に整理して紹介されます。とはいっても単に実践事例の羅列に終始するのではなく、各章ともそのテーマに関するスタンダードな考え方が提示されたうえで具体的なリサーチが紹介されています。このことにより、読者がそのテーマに関して同様の問題意識を持っている場合に、何を考えれば適切なリサーチ・クエスチョンが設定できるのかが、よりわかりやすくなっています。
たとえば、「生徒がリスニングに苦手意識を持っている」という問題意識があったとして、では単にリスニングの練習を反復すればよいのかというと、必ずしもそうではありません。本書が示すところによれば、そもそもリスニングに嫌悪感を持っている場合があったり、単語を知らない場合があったり、あるいは音変化がよくわかっていない場合もあったりするということです。そうすると、実は「リスニング」そのものが問題の本質なのではなく、授業のマネジメントや動機付け、音声指導全般の進め方が問題なのかもしれない、ということに思い至るわけです。
現場にいると、いくら自分では正しく考えているつもりでも、どうしても目の前の状況に振り回されて問題の本質を取り違えた悩み方をしてしまうことが多々あります。そういう無駄を省くためにも、各章冒頭の論点整理はたいへん有意義なものです。
じさらに、実際にアクション・リサーチに取り組んだ教員の感想が紹介されているのもたいへん参考になり、読み応えがあります。たとえば、次のような述懐には、私はたいへん納得し、思わず「うんうん」とうなずいてしまいました。 「今までは、ただ漠然と『ここではこれを教えて、この活動を入れて』というように、授業で何をやるかということばかりに目がいきがちであったが、ARを行なうことで、どのような生徒を育てたいのか、最終ゴールは何かということを明確にしようと心がけるようになった。」(p.52)
最終の第3部では、教員研修の一環としてアクション・リサーチに取り組んだ実例が紹介されています。個人レベルでのリサーチだけでなく、県レベル・市町村レベルの取り組みや、自主的な研修サークルでの取り組みが紹介され、一種の協働的アクション・リサーチ(collaborative
action research)の可能性が示唆されています。
以上のように本書は、アクション・リサーチに関する理論的な整理と実践の実際がバランスよく、かつ有機的なつながりを持って示されているという点で、たいへん読みやすくわかりやすい入門書に仕上がっていると思います。
私自身は、学生時代にアクション・リサーチを多少かじったことはあるのですが、その意義を実感として理解し始めたのは、やはり現場に出てしばらく経ってからのことでした。現場5年目の今年、本書を読んで、アクション・リサーチが教員の個別の状況に即した授業改善によく対応したものだということを強く感じました。
「アクション・リサーチって時々耳にするけど、一体何だろう?」という人や「アクション・リサーチに取り組んでみたいのだけど…」という人にはぜひご一読をおすすめします。
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