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「関係代名詞のうち、目的格は省略することができる」
というのは、中学・高校レベルの英文法においては常識となっています。
たとえば
(1)That's the person (whom) I saw yesterday.
のような例です。
これを「接触節」と呼ぶことも最近は増えてきたようにも思いますが、いずれにせよこのようなパターンの英文においては、関係代名詞の目的格はあってもなくてもよいような扱いをされることが多いと思います。
しかし、この「目的格は省略可」という説明は不十分・不正確です。英語教師向けの文献ですらときおり指摘されていることですので、それほど認知度の低い問題だとも思えないのですが、いまだにこの説明法が幅を利かせているのが現状のようです。
まず何がおかしいかというと、次のような反例があることです。
(2)The person has just arrived who I saw yesterday.
(3)I talked to the person who probably you saw yesterday.
(4)This is the house in which he lived.
いずれも目的格ですが、省略することは許されません。
(2’)* The person has just arrived I saw yesterday.
(3’)* I talked to the person probably you saw yesteday.
(4’)* This is the house in he lived.
(4)に関してはこれまでも「前置詞が前にある場合は省略できない」などの例外規定を設けることでなんとかつじつまを合わせてきたのですが、(2)や(3)の例は、「目的格は省略可」という規則では説明が難しいものです。
では、どのような規則であればこれらの事実を説明できるのかということですが、吉田(1995)と岡田(2001)を引用します。
吉田「関係代名詞は、直前に先行詞、直後に名詞句が存在するならば、省略できる。」(p.144)
岡田「関係代名詞は、先行詞と名詞句にじかに挟まれている場合に限り、省略できる。」(p.44)
どちらも同じことを言っています。
この規則に照らして上の例を再度眺めると、たしかにその通りであることが確認されます。
(1)では"the person"と"I"という「先行詞と名詞句」が関係詞をはさむ形になっていますが、(2)(3)(4)はいずれもその形が作られていません。
つまり、「目的格だから」省略できるのではなく、「関係詞の前後が特定の条件を満たしているから」省略できると考えるのが今のところ正しい考え方だといえるでしょう。
1つ注意すべきなのは
(5)This is the book whose cover is missing.
のような所有格の例です。(5)も、whoseを省略することはできません。
(5’)*This is the book cover is missing.
一見すると "whose" の後ろには"cover"という名詞があるじゃないか、ということから、「新規則」への反例のように思えるかもしれません。
しかしそれは違って、「新規則」が言っているのは「名詞句」であって「名詞」ではないことに注意すべきです。「句とは何か」と言い出すとややこしくなってくるのですが、ここではようするに「必要なはずの限定詞がない“裸の名詞”は関係代名詞省略には関わらない」ということです。
そして、「必要なはずの限定詞」とは、すなわち「関係代名詞の所有格」であるので、所有格"whose"はどう転んでも省略できない、というところに落ち着きます。
以上のことから、関係代名詞の省略については、その説明の仕方を見直す必要がありそうです。
とはいえ、「目的格は省略可」だけでも実際的にはかなり用をなしますし、正確な規則を教えることがどれほど英語学習に資するのかもわかりません。少々不正確な規則でも、だいたいの場面で使えるものならばそれでよい、という考え方もできるので、何もかも「新規則」で塗り替えねばならないということでもないでしょう。
じっさい参考書の中にも、「目的格の関係代名詞は省略されることが多い」という記述で、学問的正確性と学習者へのわかりやすさのバランスを図っているものがあります。少なくとも、旧来の説明を無批判に受け継ぐことだけは避けねばならないでしょう。
[引用文献]
岡田伸夫(2001)『英語教育と英文法の接点』美誠社
吉田正治(1995)『英語教師のための英文法』研究社
(追記)
ふと思い出だして調べてみたら、大津由紀雄(2004)『英文法の疑問 恥ずかしくてずっと聞けなかったこと』(NHK出版)でもこのトピックが取り上げられていました。規則の実用性はさておき、このレベルの一般書ですら得られる情報になってしまっているわけですから、教科書や学習参考書くらいはこの点を取り上げておく必要があるかもしれませんね。
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