第三章
選択は大切


「ってちょっと待てや!お前のせいでこんな無残な姿を晒してるっていうのになんで 見舞いなんだよ!普通謝罪のひとつでもするだろ。」

俺は我に返ってそう言い放った。

「夜中に騒々しくしている奴に何の遠慮が必要だ?生かしてやっただけでも感謝しろ。」

またまたありえない発言だ。この娘は一体何を考えているのだろうか。そんな理由で 殺されては命が幾つあっても足りやしない。だが彼女の目は、その言葉を本気と受け止めるには 十分すぎる力を放っていた。

「しかしなかなか頑丈な体だな。お前、私の助手になれ。」

助手?何の?と聞き返そうと思った刹那、彼女は口を開いた。

「わたしはこの町で事務所を開いている。お前にはそこで働いてもらう、命を懸けてな。」

事務所…命懸け…、そうか、この娘はその手の偉い人間なのか。きっと仕事内容も荷物を運んだり 貸したお金を返してもらったり、蛮勇気取りでライバルに突撃したりなのだろう。 たしか昔、女子高生がマシンガンでがんばるドラマがあった気がするが、実際にあるとは驚きだ。 しかし俺はこんな事に関わりあう気はない。というか関わりあったらその先に待っているものは 間違いなく死だ。だから俺は即座に答えた。

「やなこった!」

すると彼女は先ほどと同じ目で答えた。

「わたしはお前に選択肢を与えてやったんだぞ。それを無碍にするという訳か?」

「お前のは選択肢じゃなくて命令だろ!」

「選択肢だ。今この場で精神世界へ旅立つか、それとも私の助手として少しでもその体と共にするかのな。」

「これからよろしくお願いいたします・・・。」

俺はこう答えるしかなかった。決して逃げたのではない、ただここで断ろうものならば死後の世界まで 追ってきそうな気がしただけだ。そうだ、俺は逃げてないぞ。きっと、たぶん、そうだろう、そうであってくれ。

「よし、じゃあ退院したら事務所に来い。来ないのならば棺桶と墓を用意しておけ。」

そう言うと、俺の気持ちの一欠片すら拾おうとしない彼女は何事もなかったかのように立ち去っていった。 俺はその姿をただただ見送ることしか出来なかった。

あ、そうだ。事務所の場所どころか彼女の名前すら聞いていなかった。仕方がないのでとりあえず、電話帳で 葬祭業者と石材店を探すことにした。

>前のお話 >次のお話