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「玄関に立つ」は大切 あの恐ろしい事故からすでに一ヶ月。松葉杖付きではあるが退院を果たすことが 出来た。そして遂にある事務所の入口前に立っている。もちろん言わずもがな、 例の娘がいる場所だ。このドアを開けてしまったら、自分は後戻りはできない。 そんな予感がひしひしとしている。 何故か?理由は2つ。一つ目はこの事務所自体。周りは中層ビルが立ち並ぶ この辺ではなかなかの好立地。そこに二階建ての小さな建物がそれらのビルを 押し退けるかのように佇んでいる。どう見てもここにあった何かを排除して 無理やり作ったといった感じだ。 そして、二つ目。事務所の看板だ。『まつせそうだんしょ』と書いてある。 何故にひらがな?そして下にはまたもやデフォルメされたキリンが…。 これは誰の趣味なのだろうか。あの娘にしては合わない気もする。 不安がますます募るがここに入らない限り、棺桶に入ることになるのは 確定された運命。俺は勇気を出して一歩を踏み出した。 そこには…いたって普通の風景が広がっていた。事務デスクに応接セット、テレビに オーディオ。コーヒーメーカーと書類棚。全てが普通なのだ。どこからどうみても 推理ドラマに出てくる法律事務所のような風景だ。その風景に呆然としていると 急に現実に戻された。 「何をしているのだ、新入り。」 初出勤の俺に向けられた第一声がそれですか? 「声に出して言うとはいい度胸だな。」 しまった。つい言葉に出ていたらしい。しかし相手はどう見ても年下だ。上司とは いえ必要以上にへりくだる必要もないだろう。俺はそう考えると応接のソファーに 座り込んだ。 |