第九章
下準備は大切


あれから期限の一週間が過ぎた。最初の3日はあいつの親を 監視するために、鈴音と尾行の日々を送った。そして残りの4日は 事務所で電話番だった。

「このままだと本当に殺しかねんぞ…。」

俺は誰もいないこの事務所で一人溜息をつく。どうにか事態を打開したいが 相手があの娘では到底太刀打ちできないだろう。というか次はきっと 命がない。しかしこんな小さな理由で人が死ぬ所を見るのは御免だ。 そう思いながら部屋をぐるぐると回る。

すると、部屋の片隅に昨日まではなかった段ボールが視界に入ってきた。

「ずいぶんと大きな段ボールだな。冷蔵庫でも買ったのか?」

そんなことを考えて中身をのぞいてみようとしたところで、入口のドアが開いた。

「そろそろ時間だ。お前はその段ボールを外の車に入れろ。」

どうやら中身は今日のあの依頼に必要なものらしい。とりあえず言われたままに ダンボールを運ぼうとする。

「重っ!いったい中身はなんなんだよ?一人じゃとてもじゃないが運べんぞ。」

そう言って、動かそうとしたところでバランスを崩した。段ボールは横転して 中身が箱から少し飛び出る。中には明らかに人間の髪が入っていた…。 かつらとかではない。もちろんウイッグでもない。なぜか知らないが、髪と一緒に 顔がセットで付いている…。

いや、知らないわけではないのだ。ただ俺は認めたくなかったのだ。 段ボールに入っていたのがあの子供の両親だということに。

「がっかりしろ、まだ生きている。気を失っているだけだ。」 鈴音は特に驚く様子もなく俺に話しかける。いつも通りの無感情な、 何を考えているのかわからない顔だ。

「そのままでいいから早く運べ。依頼人が待っている。」

>前のお話 >次のお話