第十章
依頼達成は大切


俺は仕方なく一人ずつ外へ運び出すことにした。傍から見れば 間違いなく誘拐だ。

「ついに俺もこんな大悪事の片棒を担ぐことになるとは。」

「お前は何を持って悪とする?お前の基準とは常に正しいものなのか?」

俺の感想に、いちいち難しい質問をしてくる。確かに自分の基準が 全てとは言わないが、これはきっと悪なのだということはわかる。 そんなことを考えながらなんとか外に運び出す。

目の前には何処となく見覚えのある黒塗りのバンが待ち受けていた。 黒のボディに赤いライン。そしてサイドにはスライド式のドアがある。 俺の記憶が確かならば、この車は…いや、深く考えるのは止そう。 ただ、そっくりなのだが何かが違う。

そうだ、大きさだ。

この車は明らかにコンパクトカーをベースにあのバンを再現している。 これは鈴音の趣味なのだろうか。

「早く後部座席に詰め込め。後が支えてるんだ。」

鈴音が台車に母親を乗せてこちらにやってきた。

2人を乗せた後、鈴音の運転で車は動き出した。目的地は そう離れていない山の展望台。ここであの少年は待っていた。

俺は車から2人を降ろす。

「ここまでは全て計画通りだ、後はお前がこのナイフで殺るだけだ。」

そう言って鈴音は少年に凶器となるであろうナイフを足もとに投げ捨てる。 少年はそれを拾い上げる。

ちょうどその時だ。両親が目を覚ましたようだ。2人は特に手足を縛っている わけではないので、あたりを見回しながら立ち上がる。

「ここはどこだ。お前、こんなところで何を…」

そこで父親の言葉が途切れる。おそらく手にしたナイフを見てしまったのだろう。

「睡眠薬の効き目が切れたようだな。少年、チャンスは今しかないがどうする?」

あまりに現実的ではない。何も苦労をすることなく人の力を借りて 人を殺す。推理サスペンスのようにバックグラウンドに深い恨みがある わけでもない。まるでドラマの一部分に放り投げられたような感覚なのだろう。 少年はただ立っているのみで何もできない。

「どうした?私が足止めでもしてやるが。もちろん追加料金は取るが。」

鈴音は依頼達成のために声を出す。それでも少年は動かない。ただ自分の 両親を見るのみだ。両親もいったい何が起きているのかわからず立ち尽くすのみだった。 すると鈴音は、懐から拳銃を取り出して少年の足もとに一発撃つ。

パスン

サイレンサーが付いているのか、音は小さかった。しかし少年の足もとには 銃弾の跡がくっきりとついていた。どうやら鈴音は本気で依頼を達成させる つもりだ。俺は居ても立ってもいられなくなり叫んだ。

「おい、いつまでぼうっと立ってるんだ。嫌なんだろ、本当は。ただ 認めてもらいたかったんだろ、自分はちゃんとやってるんだって。 親が思ってるほど子供じゃないんだって。そうやって背延びがしたかった だけなんだろ!」

何を言っているのか自分でもよくわからない。それでも思ったことを口に出す。

「お前は大切にされてるんだよ。子供じゃないならそれくらい気付けよ!」

少年はナイフを落とす。

「ごめんなさい…ごめんなさい。」

小さな声だが、たしかに少年は両親にそう言った。そして泣き崩れる。慌てて 駆け出す両親。

ちょっとのすれ違いだったんだ。それがわからないから、わかろうとしないから きっといけないんだ。俺はそう思った。

「何をボサッとしている、帰るぞ。」

鈴音はやはり何事もなかったかのような顔をしている。もしかしたらこの娘は、 こうなることを予測してこの依頼を受けたのかもしれない。俺はそう思いながら 、この小さなバンに乗り込んだ。

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