税金ゼミナール(年金と消費税A)
政府・与党の考える年金制度改革
3月29日に開催した第2回税金ゼミナールでの竹本光代さん(全厚生年金講師団)の
講演を事務局の責任でまとめたものです。ぜひ、ご活用ください。
第1回の振り返りから
(1)日本の年金制度の問題点
@年金保険料の空洞化
日本の年金制度は、25年という長い受給資格期間を求めているために、この制度からこぼれ落ちる人がたくさん出てくるという話を前回しました。
さらに、今、年金保険料を収めない空洞化問題が言われています。 それに対して政府は、莫大な費用をかけコマーシャルを作成したり、コンビニでいつでも保険料を納められるようにするなどの対策を立てています。
しかし、保険料を納めていない人の内で、年金に対して不信を持っている人は、どんな機会が与えられても納めに行きませんし、経済的に困難という人は、何回催促の葉書を送っても、ないものは納められないわけです。だから、政府の対策は何か方向が間違っていると思います。やはり一番効果的なのは、誰もが「この年金制度だったら入りたいな」と思うような魅力的ある制度にすることだと思います。
そういう年金にしないと、根本的にはこの空洞化というのは止まらないと思います。
そして経済的に困難であるという人に対しては、納められるだけの収入をどうやって保障していくのかが大切なのです。私は社会保障の一番の根本は就業保障だと思います。仕事があって収入があれば、税金だって、保険料だって、払っていけるわけです。それがないから、今、皆さんが苦しんでいるのです。
A 積立金制度の弊害
年金の積立金制度というものが、年金改悪が続く根本の原因なのだということも前回もお話ししました。
積立金というのは、基本的には貯金と一緒ですから、インフレにとても弱く、今まで予定利率5.5%で運営できていた年金制度も、低成長になり利率が下がると、その弱点が出てくるわけです。しかしこれは、低成長になったからというわけではなくて、もともと年金制度に積立金制度そのものが馴染まないということなのです。ですから、私は積立金制度を廃止して、その年にいるお金はその年に稼いでいる人、稼いでいる企業が負担をすべきだと思っています。
B 年金積立金の活用が必要
年金積立金は、147兆円、厚生年金基金の代行部分の返上も入れると170兆円ほどの積立金があるとされています。あくまでも帳簿上ですが・・・。
政府は、少子高齢化社会に対応するために、保険料を上げ、給付を減らす、それでも財源が足りないので消費税の増税が必要である、などと言っていますが、少子高齢化社会も未来永劫続くわけではなくて、ここ50年ぐらいが一番のピークなのです。いくら医学が進歩しても、人間の寿命は120歳か130歳ぐらいだそうですから、今のお年寄りの大概は亡くなってしまい、ティーンエージャー以上の人が高齢者になるわけです。
そう考えると50年経てば、今ほどの少子高齢化社会ではないという予測が立てられます。その年にいるお金はその年に集めるということを基本にして、かつ現役世代にものすごく負担がかかりそうだったら、積立金を取り崩して緩和をしていくということにすれば、ある程度世代間のバランスがとれます。このように、積立金も活用しながら乗り切っていくというふうに舵を切らなければいけないと思います。
(2)現行の年金制度の仕組み・特徴
@ 生涯給付
現行制度の仕組みのことも、少しだけおさらいをしたいと思います。1つは、生涯もらえるというのは大きなメリットです。民間によくある10年間とかいうのではなく、生きている限りはもらえるというのは、大きなメリットです。ただし、昔に比べて給付水準は大体30%以上下がっています。65歳支給開始というのも、それまでの就業保障もなく、失業保険も保障されていない中では、大変厳しいです。
A 現役時代の賃金が反映される
現役時代の賃金が反映される仕組みになっているということです。厚生年金とか共済年金というのは、今後ますます不安定になっていくと思います。日本はこのまま行ってしまうと、年収300万円時代になるというのが、最近よく言われています。一握りのすごいお金持ちと、残りは貧しい人がほとんどという世の中。アメリカ型の社会になっていくと言われています。
日本も規制緩和ということで、工場の労働者にも派遣が許されるということになってきました。これからは派遣とかフリーターしか仕事がないという層が増え、年収300万円も稼げたらまだいい、下手をすると100万円そこそこしか稼げない人たちがもっともっと増えるのではないかと思います。
そうなってくると、今の制度は、現役時代の賃金が反映されますから、年金生活に入っても、庶民と一部のエリート、上層の人たちとの格差がものすごく出てきます。現役時代の賃金が反映される仕組みというのは、公平なようで全然公平ではないのです。
B 保険料に累進制がない
厚生年金の場合は、4月〜6月の3カ月の給料平均で、1年分の保険料を決めます。去年のことですが、月給が2,650万円という人がいて、本当に驚きました。 片や5万円とか、7万円とかいう給料の人もいるのに。
高額所得者はたくさん保険料を支払うのかというと、そうではありません。保険料には年間62万円という上限がありますので、2,650万円稼いでいても毎月の給料が62万円の人と一緒です。
保険料の下限は9万8,000円です。給料が5万円、7万円の人は9万8,000円支払うことになります。
月給が2,650万円の人と、10万円そこそこの人が払う1万円の生活への影響は、全然意味が違うと思うのです。保険料は13.58%(労使折半)でみんな同じです。累進制がないのはおかしいでしょう。税金でも最高税率が下げられて、一時は最高税率が70%まであったのが、今は最高税率30数%です。 本当にお金持ちは優遇されています。
04年、年金制度改正の問題点
@ 老年者控除の廃止と年金課税の見直し
今度の政府・与党の税制改革では、貧しい人たちだけが、ますます痛みを分かち合わなければいけないということが用意されています。
例えば、公的年金の控除。65歳以上は緩和されているのですが、65歳未満の人と同じような水準にするとか、65歳以上の人には、老年者控除といって一律50万円の控除が認められているのを廃止するとか、そういうことをして、財源を確保しようとしています。
A 国民に求めるのは「自立・自助」の精神
法案は国民に自助自立を求めています。これは国民に老後の面倒は自分で責任を持ってやりなさい、国は面倒を見ませんよ、ということです。
国は外交と防衛だけに特化して、仕事をして、老後の心配とか社会保障なんていうのは、自分の責任でやりなさいよ、というような感じの改革なのです。小泉さんは「骨太の方針」と言いますが、要するに、「国民はみんな我慢しろ」という路線なのです。一貫して庶民増税と社会保障縮小で、私たちに負担を強いるという形になっています。
B 持続可能な年金制度
政府の改革の視点ですが、要綱が出ています。「少子化などの社会変動に対応し、持続可能な制度へ」ということを言っています。持続可能な制度、年金はつぶれませんよというのが、一番国民に安心を与えることなのだということを言っています。
彼らが言っている持続可能な制度というのは、誰にとって持続可能な制度なのでしょう。今までは、曲がりなりにも、老後の給付水準はある程度、現役世代と比べて6割は保障しますよとか、いいときには7割は保障しますよという形で、給付水準のほうを先に決めて、それを維持するために保険料をどうしょうかとかいうことを決めていたわけです。
今度の改正法案は、そんなことは関係なしに、保険料の値上げだけが決まります。それも、13年先の値上げまで決まってしまうのです。 厚生年金の保険料は、今年の10月から毎年0.354%ずつ上がっていって、2017年に18.3%になるまで上がります。政府は18.3%以上にはしません、だから、安心してください、と言っています。これは経営者側にこれ以上保険料を上げないから安心して下さい、と言っているのです。
厚生年金の保険料は個人が負担していると同時に、企業も同じ金額を負担しています。保険料を上げられるのは、労働者も痛いですけど、企業も負担増になります。今、企業はコスト削減の中で、社員を派遣やフリーターに切り替えて、社会保険に入れなくてもよい労働者をどんどん増やしています。
C 保険料は上がっても給付額は保障されない
13年先の値上げまで決めて、18.3%で保険料を固定しても、この先、経済がどうなるかわかりません。
万が一、経済が傾いてしまったら給付を削るしか道は残っていないわけです。ということは、どの様な水準の年金になるのか、今後益々わからないということです。
「給付確定型から拠出確定型へ」とは、保険料をもうこれ以上げないということだけを決めて、後は野となれ山となれということです。保険料は変えません。その代わり運用によってはいくらでも給付は下げていきますよ。というのはある意味、持続可能な年金と言えるのかもしれませんが、私たちの生活が持続可能にはなりません。
D 60歳から65歳のくらしは
雇用確保と年金支給の連携というのがあります。政府は年金支給が65歳になるのだから、雇用も65歳定年に変えてもらおうということを打ち出しました。しかし、経済界からの反発が非常に強くて、義務じゃなくて努力目標にとどまりそうです。
60歳定年は動かずに、65歳年金支給開始ということだけが先行して、5年間は収入がないという人をいっぱいつくるということになります。今は退職金を廃止している企業もあります。ましてや中小零細企業では、もともと退職金そのものがないというところもたくさんあります。失業保険だって、10カ月もらえたらいいところです。60歳定年後は、たちまち生活保護に一直線になるかもしれません。
E 国庫負担1/2への引上げは先送り
65歳になったら、どの制度に入っていた人も、基礎年金をもらいます。満額40年かけている人で、79万7,000円だという話を前回しました。その基礎年金の給付額の3分の1は国庫負担、税金から出ることになっています。残りの3分の2は皆さんが積み立てている保険料から出すという仕組みになっています。
この3分の1の国庫負担を2分の1まで引き上げるというのが、前回の改正のときに付帯決議で決まっています。そうすることによって、保険料はそんなに上げなくても給付は維持できるということですが、これは先送りされ、2009年までに2分の1にしますということになりました。
まず財源を確保してからということです。初年度は何で財源を確保するかというと、年金課税の控除を縮小して、年金受給者から税金を取って272億円を確保する。それから、定率減税を縮小したり廃止したりして、所得税とか住民税を引き上げて、庶民負担で補おうということです。
そんなことをしているうちに、小泉さんは辞めるだろうから、その時点で消費税を上げようかというような段取りなのです。そういうことが、今回打ち出されています。
F 都合のいいマクロ経済スライドの導入
もう1つ今回の改正案で、マクロ経済スライド調整が導入が言われています。年金支給額は物価スライドが導入されていて支給額月20万円の場合、これまでは物価が2%上昇すれば、年金額はそれに連動して2%上がり、20万4,000円になりました。ところが、マクロ経済スライドを導入することで、物価上昇率2%から調整率0.9%が引かれて、1.1%になり、月額で20万2,200円となります。
改正案は保険料を負担する現役世代の人口は将来、少子化の進行に伴い減少するので、この減少傾向を年金の見直しに反映させるとして、「調整率」で給付額を減らすということなのです。
給付額の計算は、新規に年金を受ける者は「1人当たり手取り賃金上昇率−調整率」、既に受給している者は「物価上昇率−調整率」となります。
つまり、少子化により将来公的年金加入者が減り、国民の寿命が伸びるほど年金財政に影響するため、その影響分を調整率で引くというものです。厚生労働省の試算では2025年頃までは、調整率は0.9%。また政府の見通しによると物価は2005年から上がり始め、2009年以降は毎年1.0%上昇するとしています。しかし、物価が1%上昇しても「調整率」で年金額は0.1%の引上げにとどまり、年金額は実質的には目減りをつづけることになります。
ちなみに調整率の根拠となっているのは
・ 合計特殊出生率が1.32人(2002年)→1.39人(2048年)になる。
・ 物価上昇率は2003年△0.4%、2004年△0.3%、以後上昇をつづけ2009年以降は1.0%の
上昇がつつく。
・ 賃金は、賃金の伸びを物価上昇率で修正した名目で2008年以降2.1%伸びる
これらのことが前提になっています。この予測が外れれば、給付がさらに減らされるこになります。