低脂血症

低脂血症はどうする?

板東浩

Question & Answer
Q: 低脂血症をみたら、まず何を考えるか?
A: 原発性は少なく、二次性で多い疾患は肝機能障害、甲状腺機能
  亢進症である。

Keyword: 低脂血症、コレステロール、トリグリセライド、HDL、
リポプロテイン

Case
低コレステロール血症の指摘により、甲状腺機能亢進症と診断
された1例
 患者:38歳、男性
 既往歴:特記することなし
 現病歴:従来、外交の仕事で忙しい生活を送ってきた。1-2カ月前
から通常の仕事をこなしているが、体重が3kg減少したので近医を
受診。末梢血、肝機能に異常はないが、低コレステロール血症があり、
大学病院へ紹介。脈拍92/分、甲状腺に腫大あり、心・肺・腹部に著変
なし、血糖は正常、血清TSH濃度の低下、遊離T4濃度の上昇あり。

 はじめに
 低脂血症は、高脂血症に比べて、日常診療でそれほど重要視されて
いない。しかし、本病態は他の原因によって引き起こされることが
多く、考え方やマネージメントを把握しておくことは重要である。本稿
では、低脂血症の概略および実際に役立つ情報についても記したい。

 1)低脂血症の基準は
 低脂血症について、一般的な基準を表1に示す。この中でしばしば
見かけるのは低コレステロール血症で、慢性肝炎、肝硬変、甲状腺
機能亢進症などの疾患による場合が多い。
 この数値が設定された理由として、臨床検査データの統計学的処理
が挙げられる。一般日本人40歳代の検査値で、低値の5パーセン
タイルのデータは下記のとおりである。
      男性  女性
 T-CHO   146   143  mg/dl
 TG            45          37  mg/dl
 LDL-C      74   75 mg/dl
 HDL-C      32         37  mg/dl

 2)なぜ低脂血症になるか
 低脂血症の原因について考える場合、2つの物差しを用いることが
大切である。
 まず、原発性(一次性)か、あるいは他の疾患に起因している
二次性か、という分類である。
 次に、その脂質の産生が増えているのか、異化・排泄が増えている
のかという視点である。これは痛風(高尿酸血症)の場合にも使われ、
その病態により異なる薬剤が投与されている。
 以上の2つを組み合わせたのが、表2である。臨床の場では原発性
は稀であり、しばしば見かける病態は二次性である。血液疾患では
脂質の低下がしばしば認められ、溶血性貧血の場合に鑑別診断に
役立つ。白血病を含む骨髄増殖性疾患で異化が亢進する原因は、LDL
受容体の亢進とされる。慢性(急性)炎症では、各種のサイトカイン
の関与が考えられている。感染症のマラリアでは、低コレステロール
血症が診断の際に役に立つ。

 3)低脂血症という呼称
 血液中には、コレステロール、トリグリセライド、リン脂質、遊離
脂肪酸の4種類の脂質がある。この中の1つが正常以下になれば
低脂血症である。通常は、コレステロールとトリグリセライドの
低下が問題となる。
 これらは血中ではリポ蛋白という姿で存在する。リポ蛋白は、
脂質を荷台に載せたトラックのようなもので、水の中でも油(脂)の
中でも自由に動くことができる。従って、本来であれば、低リポ蛋白
血症、または低VLDL血症、低LDL血症、低HDL血症と呼ぶのが
正しいことになる。

 4)低脂血症の臨床的意義は
 低脂血症に関するエビデンスとして、NHLBI (National Heart,
Lung, and Blood Institute)が、低コレステロール血症と肺癌、呼吸器
疾患、消化器疾患の頻度との関係が報告している。
 また、35万人対象のMRFIT (Multiple Risk Factor  Intervention
Trial)では、低コレステロール値群で脳出血の増加が指摘された。
本邦の報告でも、血清コレステロール濃度が160 mg/dl以上群と
未満群の検討で、未満群は他群に比して、脳出血死の相対危険度は
3.22倍となる。

 5)LDLとHDLのポイント
 LDLが低値の場合、動脈硬化が進展しにくく、冠動脈疾患
(coronary heart disease, CHD)の頻度は低下する。しかし、極端に
LDLが低ければ、リスク比は上昇する。LDLが横軸、総死亡率が
縦軸のグラフでは、JまたはUカーブを描く。
 二次性の低脂血症の中で、HDLが低下するかどうかは臨床的に重要で
あり、表3に示した。
 HDLは善玉コレステロールとして知られる。1%の低下により
CHDが2-3%増え、これは疫学的にも証明されている。この機序に
ついては、細胞からコレステロールを引き抜くコレステロール逆転
送系の最初の段階に、HDLが働きかけるために、動脈硬化が起こり
にくくなるという。
 HDLは、総コレステロール値より臨床的に重要であり、その旨を
患者に説明すべきである。生活習慣の改善、特に運動療法の効果が
HDL値に表れやすい。患者の動機付けや指導に大きなパワーとなる
ので、役立ててほしい。
          
 6)日常診療でのマネジメント
 日常診療の場で、原発性の頻度は稀であり、ほとんどのケースは
二次性である。
 低脂血症の有病率の報告では、健康男性772例中、12例(1.6%)が
LDL値が低値であった。低脂血症の患者で二次性が否定されれば、
一次性を疑い、各種アポ蛋白の測定、リポ蛋白泳動、超遠心法などの
リポ蛋白分析を行う。近年は、様々なリポ蛋白代謝異常の遺伝子異常
が判明しており、専門施設への相談が薦められる。
 一次性の中でもっとも代表的なものは、家族性低βリポ蛋白血症
である。本疾患のヘテロ接合体のLDL値は通常の約半分となる。
本疾患の男性は9年、女性は12年寿命が長いという。

 おわりに
 本稿では、低脂血症に接した場合の考え方およびマネージメント
について概説した。診断に際しては、広い視野と柔軟な判断が必要
であり、本稿が日常診療に少しでも役立てば幸いである。

表1 低脂血症の基準

T-CHO  130 mg/dl未満
TG           40 mg/dl未満
LDL-C     50mg/dl未満
HDL-C     35 mg/dl未満 

    表2 低脂血症の原因疾患
 
       産生低下     異化亢進

原発性 無(低)βリポ蛋白血症  アポ蛋白B異常症
    Anderson病       Tangier病
    アポA-I欠損(変異体)症

二次性 慢性肝炎        甲状腺機能亢進症
    肝硬変         溶血性貧血
    慢性膵炎        白血病
    吸収不良症候群     悪性リンパ腫
    アジソン病       慢性(急性)炎症
    悪性腫瘍        脾腫、感染症

表3 二次性低コレステロール血症の原因疾患
 
主にHDLが低下    主にHDL以外が低下

肥満         甲状腺機能亢進症
2型糖尿病      肝硬変、慢性肝炎
喫煙         骨髄増殖性疾患
腎不全        悪性腫瘍、低栄養
ネフローゼ症候群   吸収不良症候群

家族性低βリポ蛋白血症
 常染色体優性遺伝で、低LDL血症を呈する。短縮アポ蛋白Bが
原因とされる。ヘテロ接合体では低コレステロールの程度も軽く
自覚症状もみられないことが多い。ホモ接合体では、無βリポ蛋白
血症と類似した症状や検査所見がみられる。