運動習慣の身体的・心理的効果とアンチエイジング

運動習慣の身体的・心理的効果とアンチエイジング

板東浩、中村巧

サマリー

・共通問診票で調査しカテゴリー化して解析する
 方法は、心身の評価に有用である。
・運動習慣を有する中高年は、通常の健常者と比較
 して心身の諸症状が有意に少ない。
・マスターズ陸上選手は高血圧、心臓疾患、脳血管
 障害が少ないエビデンスがある。
・アスリートは外向性と誠実性が高く、開放性と
 調和性が低く、神経性傾向は少ない。
・スポーツ価値意識として、即時性ー禁欲性、
 手段性ー自己目的性の各志向で考慮できる。


●はじめに
 近年、アンチエイジング(抗加齢医学)が注目を浴びている。プライマリ・ケア医
学が内科の各領域を幅広くカバーするように、抗加齢医学は縦軸の各科を横軸の糸で
統合し包含している。
 一方、本邦では生活習慣病が急増し、その原因は食事、運動、休養などが複合して
いる。その中で、特に運動の重要性が強調されつつある。
 以上をあわせたサクセスフルエイジングの観点から、健康で活動的な社会参加が重
要1)となる。このモデルにはマスターズスポーツへの参加者があり、著者2人も本領
域の活動と研究を継続している。本稿では運動習慣の身体的・心理的効用とアンチエ
イジングなどについて記したい。

● I. アンチエイジング的見地からの調査

1. 共通問診票(AAQOL)とカテゴリー化
 アンチエイジングの領域には、簡便な共通問診票(Anti-Aging QOL Common
Questionnaire, AAQOL) がある2)。AAQOLは抗加齢医学会などで繁用され、身体的30
項目、精神的心理的21項目の質問を含む。回答方法は、ない、まれに、ときに、しば
しば、いつも、という5段階で記入し、集計するものである。
 筆者らは、AAQOLで得られた結果を類似した症状を5項目ずつグループ化して6個
のカテゴリーに大別し、有用性を報告した3)(表1)。たとえば、VDT関連症状には
目が疲れる、目がかすむ、目痛、肩がこる、筋肉痛・こりの各項目を含む。6領域に
は、身体的カテゴリーNo.1〜3(VDT関連症状、倦怠感関連症状、持続神経症状)、心
理的カテゴリーNo.4〜6(うつ関連症状、自信喪失症状、不安関連症状)がある。

2. マスターズ選手
 上記の方法を用いて、著者らはマスターズ陸上男性選手(Mast)群とコントロー
ル(Cont)群を調査した3)。Mast群の各症状は、Cont群よりもNo.1,2,4,5,6で有意に少
なかった。No.3(持続神経症状)では有意差はなく、オーバートレーニングなどがに
よる腰痛や関節痛を訴える症例が存在が一因であろう。
 これらの結果から、運動習慣を有する中高年は通常の健常者と比べて、身体的にも
心理的にも様々な症状が有意に少ないことが明らかにされた。

表1 カテゴリーと症状の項目

  カテゴリー      症状の項目

1 視覚表示装置関連症状:目が疲れる
  VDT-related      目がかすむ
  symptom        眼痛
             肩がこる
             筋肉痛・こり
2 疲労関連症状    :だるい
  fatigue-related     健康感がない
  symptom       食欲不振
             胃が張る
             胃痛
3 持続性神経関連症状 :頭痛  
  persistent      めまい
  neurological     耳鳴り
  symptom       腰痛
             関節痛
4 うつ関連症状    :いらいらする
  depressive-related  怒りっぽい
  symptom       人と話すのが嫌
             憂鬱
             役に立つ人間ではない
5 自信喪失関連症状  :意欲がわかない
  loss of self-      幸せと感じない
  self-confidence    生き甲斐がない
             日常生活が楽しくない
             自信を失った
6 不安関連症状    :集中できない
  anxiety-related     問題を解決できない
  symptom        容易に判断できない
             理由なく不安になる
             何か恐怖心を感じる



● II. 運動習慣の身体的効用

1. 心肺機能と筋肉量
 マスターズ陸上選手が、一般健常者と比較して身体が健康とされる理由として、心
肺機能や筋肉量の差異が推測される。マスター陸上選手を含む4群で、最大酸素摂取
量や脂肪率、筋肉の面積が比較検討されているので表2に示す4)。
 Myersら5)は、6213名男性をトレッドミルで6.2年追跡し、1256名が死亡し年間死亡
は2.6%であった。その解析で一番強いリスクの指標はメッツのスコアであり、1メッ
ツの上昇で生存率が12%上昇。心臓血管疾患患者のリスクファクターの中で、運動能
力が最も有力な予想指標と考えられた。つまり、対象者の条件や疾病状況にも左右さ
れるが、軽い運動ではなくある程度の強い運動が効果があると示唆される。
 そこで、一般中高年者に対する運動や日常生活動作の重要性が叫ばれ、30〜50分/
日の有酸素運動が週に3〜5日、かつ大きな筋肉に対するレジスタンス運動が週に2回、
との推奨もある。

表2 マスターズ選手を含む4群で比較

        マスター 若年陸 健康な 健康な
        ズの選手 上選手 高齢者 若年者
年齢(y)     61.5   24.0  59.7  26.5
VOmax(ml/kg/min) 51.5  65.4  34.5  44.6
脂肪率(%)    15.4   9.3   22.0  17.0
筋肉面積(u/m2) 5052    4658  4855  4234     
(type 1 fiber)

2. 動脈硬化疾患と各種疾病
 マスターズ陸上選手は動脈硬化疾患が少ないとHernelahtiらが報告した。11年前に
トップクラスだった陸上選手(46-70歳、264例)と20年以上心臓血管疾患がない健康
男性(年齢一致、388例)の2群で検討。高血圧薬の服用歴がある割合は、前者8.7%、
後者27.8%と大きな差異があり、年齢とBMIで補正しても、オッズは0.43、95%信
頼intervalは0.25-0.76であった。
 Leeらは運動する人としない人の脳卒中リスクを多論文でレビューし、動く人のリ
スクは25%減り、症例研究では64%減り、両者で27%減ると報告した。定期的な運動施
行者や日常生活で身体活動が多い者は、総死亡、心疾患、高血圧、糖尿病、肥満、骨
粗鬆症、結腸がんなどの罹患率や死亡率が低いとされる。
 RoweとKahnが唱えたサクセスフルエイジングの概念が、広まりつつある1)。医学的
な疾病の有無を問わず、心身ともに健康で、活動的に社会参加できる重要性が強調さ
れている。

● III. 運動習慣の心理的効用

 中高年者が運動やスポーツに対して、誤解や思い違いを持つ場合がある6)(表3)。
これらの状況を理解しておく。まず、身体活動・運動の実施で、メンタルヘルスや生
活の質が改善されることを説明する。次に、日常生活で身体活動の増強を試みるよう
にアドバイスするとよい。

表3 運動に対する中高年による誤解や思い違い

1)運動を行うためには健康でなければならない。
2)運動を始めるには、あまりに歳を取り過ぎている
3)運動するには、特別なウエアや道具が必要である
4)きつい運動を行わないと、効果はない。
5)忙しすぎて、運動を行う時間がない。

1. スポーツ心理学とメンタルヘルス
 臨床スポーツ心理学の側面からみると、アスリートは非アスリートに比較して、有
意に外向性と誠実性が高く、開放性と調和性が低い。競技が長年になるほど、外向性
と誠実性が高くなるが、神経性傾向は少ないという。また、長寿高齢者では、調和性
が高く誠実性が低い心理的特性がある。この中で、外向性は成人後期にやや高くなる
が、概して年齢や性によらず普遍的で安定している。
 マスターズ陸上選手への個人・社会志向性尺度に関する研究によると、競技種目が
違っても女性は比較的社会性が高く保たれている。グループ競技より個人競技の選手
では、より個人志向性が高いエビデンスがみられるという。
 最近、スポーツ選手のメンタルヘルス評価尺度(Mental health scale for
athletes MHSA) が適用されている7)。個人の健康や生活習慣に関する意識や行動を
チェックする健康度・生活習慣診断検査も行われる。競技場面には、挑戦的態度、自
己理解、ケガへの対応、個性の発揮、危機回避能力、積極的思考、チームへの適応な
ど7項目を含む。日常生活の管理には、睡眠、心身のコンディショニング、疲労・ス
トレス、食事、酒・タバコの対処の5項目がある7)。今後はこれらの指標を活用し、
評価していく方向性が望まれる。

2. スポーツ価値意識と生活満足度
 スポーツ価値意識については、逢坂らの報告が有用である8)(表4)。平易な分類
としてレクレーション型、レジャー型、世俗内禁欲型、アゴン型の4型がある。ほか
に、即時性志向ー禁欲性志向と手段性志向ー自己目的性志向の両軸で4型に大別でき
る。社会運動論の見地からMast選手を考えると、社会軸と時間軸の組み合わせにより
快、愛、利、正の4つの価値観に分類できる。
 良好なスポーツ価値意識が心理的なモラール向上を導き、ライフスタイルの改善、
人間関係の充実、良好な経済状態、高い身体的・社会的活動性などがプラスに関わっ
てくる9)。
 後期高齢者の生活満足度に影響する運動やADLについて、石澤らは活動群と非活動
群15名ずつ検討した10)。運動・スポーツ経験と生活環境が、1)運動・スポーツ実施
状況に影響し、2)ADL、3)疾病罹患状況、4)主観的健康状況に関わり、この4者が生
活満足度を決定するという。
 マスター陸上選手は、他人から指示されることなく、自分の意志で練習を続けてい
る。これはアドヒアランスと呼ばれ、行動の維持・継続を意味する。その定義は、個
人やヘルスケアの専門家が相互に満足し、肯定的な健康関連の結果を導くような一連
の活動が継続するもので、随意的でしかも自由選択的な過程という。一方、医師が患
者に服薬させたり治療が継続するのは、コンプライアンスと呼ばれている。

表4 マスターズ選手の関する報告とデータ

1)目指す方向性
  記録と勝利     33.1%
  健康保持      30.8%
  休暇・余暇     22.0%
  仲間        14.1%
 
2)余暇の過ごし方
  趣味        38.9%
  運動・トレーニング 22.2%
  家族        13.3%
  社会活動       8.9%
  教養・知識      6.4%

3)生き甲斐があるか?
  あり         91.4%
  どちらともいえない  5.3%
  なし         3.3%

4)生き甲斐があるという回答率
  30歳代       87.5%
  40歳代       82.9%
  50歳代       88.5%
  60歳代       94.0%
  70歳代       95.7%
  80歳代       96.9%

5)スポーツ価値意識の4型
  レクレーション型 何かの世俗的目的を達成 
  レジャー型    能力範囲内でスポーツ欲求充足 
  世俗内禁欲型   より上を目指して禁欲的鍛練
  アゴン型     卓越性獲得が命題の禁欲的鍛練

6)スポーツ価値意識の分類と型
  禁欲性(x) vs 中庸型 vs 即時性(y)
  23.3%   10.0%   66.7%
  手段性(m) vs 中庸型 vs 自己目的性(n)
  13.8%   62.1%   24.1%

  xとm 禁欲的鍛練で世俗的目的を達成 1.8% 
  xとn 禁欲的鍛練でスポーツ欲求達成 16.9%
  yとm スポーツの手段的側面に意義  9.2 % 
  yとn スポーツそのものを楽しむ   13.9% 
  中庸 上記の4つのファクターを含む 58.2%

7)生活目標の2軸と分布4型
  社会軸(x軸)
   自己本位(a) vs 社会本位(b)
   70.3%   vs 29.7%
  時間軸(y軸)
   未来中心(c) vs 現在中心(d)
   55.8%    vs 44.2%

  aとc 利 計画をたて豊かな生活を  48.7% 
  aとd 快 その日を楽しく過ごす   21.6%
  bとc 正 人と協力しよい世の中を  7.0% 
  bとd 愛 身近な人と和やかな生活を 22.7% 



● おわりに
 本稿では、共通問診票(AAQOL)や運動習慣の身体的・心理的効用について概説し、
マスターズ陸上選手の調査についても触れた。
 なお、著者2名は現役のマスターズ陸上選手の医師で、徳島県と兵庫県のM45クラ
スで大会参加を続けている。板東は糖尿病を専攻する内科医で、短距離の県記録保持
者であった。整形外科医の中村は、栄養士や理学療法士による独自の食事・運動療法
を指導し実践させながら、短距離や走り幅跳びで常に入賞している。両者は大学の準
硬式野球部の同窓で、卒業後30余年にわたり日々トレーニングや研究を続けてい
る11)。
 本記述が、アンチエイジング、生涯スポーツや競技スポーツ、運動を通じての健康
と生き甲斐の獲得などに参考になるよう願っている。

文献・資料
 1) Holstein MB, Minkler M. Self, society, and the "new gerontology".
Gerontologist 43(6): 787-796, 2003.
 2) 米井嘉一:人間ドックでしかできないオリジナルな自費検査項目と評価. 治
療85: 2426-2429, 2003
 3)  Bando.H., Nakamura I,Yoshioka T, Yonei Y. Investigation of Physical
and Mental Status in Masters' Athletes. Asia-Pacific WONCA Meeting 2005
Abstract, Kyoto, 2005.
 4) Hawkins SA, Wiswell RA, Marcell TJ. Exercise and the master
athlete--a model of successful aging?J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2003
Nov;58(11):1009-11.
 5) Myers J, et al. Exercise acapacity and mortality among men referred for
exercise testing. N Engl J Med 346(11): 793-801, 2002.
 6) Chodzko-Zajko WJ. Normal aging and human physiology. Semin Speech
Lang.18(2): 95-104, 1997.
 7) 村上貴聡:スポーツ選手のメンタルヘルス評価尺度改訂版の作成. 健康科学
25: 67-77, 2003.
 8) 逢坂十美:第23回全日本マスターズ陸上競技選手権大会参加者のスポーツ活動
と生活意識に関する調査. 社会学研究科紀要 (4),53-74,2004
 9) 森本兼譲、丸山総一郎. ライフスタイルと心身の健康. 心身医 41(4):
241-251, 2001.
 10) 石澤伸弘、後期高齢者の生活満足度に影響を及ぼす運動・スポーツ活動と日常
生活動作(ADL)のケーススタディ。体育学研究49: 305-319, 2004.
 11) 参考HPはhttp://hb8.seikyou.ne.jp/home/pianomed/およ
びhttp://kobe.cool.ne.jp/takumi42