HARUMAKI ROCK

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2007-07-01

最近では、上質のフランスパンで殴られたい!という欲求を抑えることが出来ない。これはおそらく、じき来る夏を迎えるにあたってのウキウキ気分が、何かの拍子で屈折し変容した結果であると分析する。だが、何でもひとりで解決しようとしないほうがいいと思うので、亀井に相談することにしたのだった。

近所のカフェで亀井と待ち合わせた。三十分遅れて、亀井が来る。オレンジジュースを注文する亀井。男は言う。イスラムの刑罰で鞭打ち百回というものがあると聞くが、そういうイメージでぶってほしい、見たことは無いけれど、いかにも罰を与えているという感じがするだろう?

ストローでジュースを飲みながら亀井は言う。あなたの言っていることはわかるし、もちろんあたしがぶつことも出来るのだけれど、根本的な解決をしないと、またぶり返すのじゃないかしら?あなたはそういう衝動を抑えられなくなったときに、いちいちフランスパンを恋人に差し出してぶってほしいと頼み込むの?相手はどう思うのかしら?それはとても苦しい生き方だわ。どうしてそういう気持になったのか、ゆっくりでいいから、思い出してみて。

亀井に促され、男は記憶を辿ってみた。フランスパンと繋がっているものは何かを、真剣に考えてみた。目の前にいる亀井とフランスパンとが、淫らなイメージとなって明滅する。そのかすかな合間を縫って、何かの映像で、顔を汚した加護がフランスパンを齧っている映像がちらついているのがわかった。とても古い映像だ。男は亀井に言う。見えたよ、加護がフランスパンを齧っている、これは一体どういうことなんだろう?

そうね、それはきっと、加護さんがいなくなったのが何となく寂しかったのだと思うわ。自分ではそういう意識がなくても、そういうのはどこかに表出するものなのよ。それを放って他の対象を求めても、結局心の穴は塞がらないんじゃないかしら?あなたの中で加護さんと一番強く結びついていたのがフランスパンだったのね。それであなたは、何故かフランスパンでぶたれるという行為によって自分の中でお別れを言って、現実を受け入れようとしたのだと思うの。いいわ、その儀式に付き合ってあげる、それで、どんなフランスパンがいいの?

男はフランスパンを思い浮かべて言う。指の関節でノックするとコツコツと小気味よい音が響くような焼き方をしたものだ。街を探し回り、そういうフランスパンを置いている店をやっと見つけた。駅前にあるベーカリー・サユミという店だ。男は腕時計を見て言う。ちょうど焼きたてのが並ぶ時間だ、今から一緒にそこに行こう。

二人はカフェを後にする。そして駅前で焼きたてのフランスパンを購入し、そのまま街の片隅へと消えていった。こうして今日もまた亀井の手によって一つの魂が救われたのだった。(おわり)